小沢王国で何が… 岩手県発注工事の談合で業者と公取委が全面対決(産経新聞)

 岩手県発注の建築工事で談合を繰り返していたとして、公正取引委員会から排除勧告を受けた建設業者が“徹底抗戦”している。その数は実に、排除勧告を受けた同県内の91の業者のうち79に上る。1月に開かれた審判の意見陳述では、業者側が足利事件を引き合いに「冤罪(えんざい)だ」と訴える場面もあった。深刻化する不況の中、審決で談合が認定されれば4億円前後の課徴金納付命令に加え、損害賠償と県からの1年間の指名停止という“トリプルパンチ”が待っている。「もっと大きな談合組織の力が働いた」とする業者側の主張は受け入れられるのか−。(盛岡支局 中川真 社会部 三枝玄太郎)

■「まるで足利事件」

 1月8日、東京・霞が関の公正取引委員会審判廷では怒声を含んだ声が響き渡った。

 「短時間のヒアリングで談合を認定された。われわれを死に追いやるのか」 「調べる側と裁く側が同じで納得できない。冤罪だ」

 意見陳述で業者側は栃木県の足利事件を引き合いに出して談合を否定した。

 容疑は、平成13年4月から16年10月にかけて、岩手県発注の建築工事を同県内の業者が談合し、落札していた−というものだ。

 公正取引委員会は16年10月、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、同県内の建設業者約30社と岩手県建設業協会(盛岡市)を立ち入り検査した。

 公取委は立ち入り検査の結果、県内の91社が「TST親交会」(トラスト・メンバーズを14年に名称変更、16年10月解散)という談合組織をつくり、県が発注するAランク業者を対象とする条件付き一般競争入札や指名競争入札などで、受注調整を繰り返していたとして、17年6月に排除勧告を出した。

 勧告を受けた91社のうち79社が異議を申し立て、審判が続いていた。

 業者側は「91社のうち、談合が認定された期間中に受注していない業者が45社もある」と主張している。

 また県内で大規模工事を請け負うことができるAランクの業者のうち、公取委から審決の対象にされていない業者が約20社あることを理由に「公取委の認定通りなら、Aランク業者の一部しか参加しない談合はあり得ず、成立しない」として、公取委の認定がずさんだとも訴えている。

 排除勧告を受けた91社のほとんどはAランクの工事を受注する資格がある業者だった。だがある業者は「談合はTST親交会ではなく、もっと大きな企業が加盟した組織が主導していた」と主張。二戸市など一部の市町村では以前からたたき合いが横行し、談合が成立する余地はなかったと話す。

 こうした業者側の主張に対し、公取委側は「個別の証拠関係については言及できない」としながらも「談合の証明は十分と考えている」と業者側の主張に理由はないとの構えだ。

 公取委の審判はこれまでに17回開かれ、今年1月に結審した。

 ただ結審後、1カ月以上結論が出ないままになっているのは極めて異例で、公取委側も審決後の岩手県の業者側の反発を考え、対応に苦慮している可能性もある。

■公取委に徹底抗戦

 業者側がここまで徹底抗戦する背景には、深刻な不況もある。実際、21年8月に同県奥州市の建設会社が破綻(はたん)するなど、公取委の審判が始まってからこれまでに、徹底抗戦している業者のうち15社が倒産している。

 審決で業者の言い分が通る可能性は極めて低く、約4億円と推定される課徴金納付命令が出されるとみられるほか、14億円ともいわれる損害賠償金が建設業者にのしかかる。さらに岩手県は審決が確定すれば、原則1年間の指名停止処分を出すことになる。これには受注していない業者も含まれ、「あんまりではないか」という声が地元で強まっている。

 指名停止が行われると、500万円以上の建築工事を請け負うことができる県内Aランク業者78社のうち、56社が指名停止の対象となる。

 県の公共事業費は平成10年度の2888億円をピークに近年は1000億円を割り込むほど。岩手県は県内の農家の2〜3割は建設業に従事しているともいわれる“土建王国”だ。

 その王国では不況の荒波の直撃に公取委の審決というダブルパンチが待ち構えるだけに重苦しい空気に包まれている。

 審決対象の76業者には現在も計3213人、臨時雇用も含めると、4千人が従事しているといわれる。(東京商工リサーチ盛岡支店調べ)

 さらに仕入れ先業者が約1万4千社。うち半数の7千社ほどは岩手県内の企業や零細企業だ。

 東京商工リサーチの担当者も「県内経済が低迷から脱していない中、審決が与える影響は計り知れない」との見通しを語る。

 同社の調査では、76社のうち、24社は直近の決算期で赤字を計上。黒字の業者でも3分の2に近い33社では、年間の利益が1千万円に満たない。

 他社と統合して生き残ろうとしてもリストラは避けられず、従業員の雇用を優先すれば、資金ショートを起こして直ちに倒産しかねない…。県内の昨年12月の有効求人倍率は全国平均の0・46倍を大幅に下回る0・35倍。雇用の受け皿はないのが現状だ。

■前知事にも恨み節

 公取委の審決よりも業者が「死活問題だ」としてかたずをのむのが審決後に岩手県が下す処分だ。

 対象76社の完成工事高約1200億円のうち、約570億円が公共事業。県の処分方針は、国や市町村の判断にも大きな影響を与える。

 談合の審決を受けた業者の処分は、都道府県により異なる。岩手県の基準は「原則1年間の指名停止」。ただ指名停止期間に幅を持たせたり、北海道のように例外規定で処分を短縮できる都道府県もあり、「あまりに厳しい」(業界関係者)との恨み節も漏れる。

 岩手県建設業協会は昨年11月、26万人分の署名を持参して県に「寛大な処分」を求めた。同協会は2月26日にも再度、宇部貞宏副会長が要望。口頭で「処分期間の短縮や他社の下請けに入れるようにしてほしい」と求めた。

 一方、処分の決定権者である達増拓也知事は、記者会見などで「審決前に処分の方針は言えない」と一貫して沈黙を守る。

 県も本音は業界と変わらない。すでに水面下で処分軽減の方法やタイミングの見当が始まっている。「基準だけで押し切れる状況ではない」(幹部)というように経済や雇用への影響も無視できない。

 だが、現状の「原則」は相当に厳格だ。岩手の基準は県担当者によると、期間が軽減される場合は「業者のほかに責任を取るものがいる場合」に限られている。

 具体的には、(1)県職員が仕切った官製談合だった場合(2)暴力団などの強要で、やむを得ず談合に参加した場合−など、今回のケースとは全く異なる状況しか想定していない。県がこの基準を改正しない限り、期間短縮の手段はないとみられる。

 岩手県の処分強化は平成16年1月に行われた。それまで9カ月間だった指名停止期間を1年間に延長し、従来は甘かった県外で談合をした業者への処分も県内と同様にした。

 この強化案に最も熱心だったのは、19年4月まで3期12年知事を務めた増田寛也元総務相。

 建設業界からは、「ヒロポン(増田元総務相の地元での愛称)は許せない。5年前の公取委の排除勧告の時に処分を緩めてくれていれば…」と怨嗟(えんさ)の声も漏れる。

■「下請け」のウルトラCも

 岩手県は緊急融資など、審決後の対応策を練っているもようだが、それだけでは済みそうにない。

 関係者からは、県は基準で今は禁止している「他社の下請け」を例外的に認めるのではないか、との見方が有力だ。入札に参加できなくても仕事がもらえるからだ。

 ただし建設業法では「丸投げ」は禁止行為。実際の下請けなら問題はないが、落札者が名前を貸しただけならば、岩手県はこの件で業者を処分しなければならなくなる。それに業界には「処分を骨抜きにする行為だ」と批判が集まることも必至だ。

 審決の対象は、技術力が高い「Aランク業者」。「県内の名だたる会社はすべて審決の対象になっており、指名停止は公共事業に大きな支障を与える」(岩手県建設業協会の山本博専務理事)と主張する。

 対象外のAランク業者も20社ほどあるが、県や市町村の工事をすべて請け負うのは難しく、「宮城など隣県の業者が手ぐすね引いて審決を待っている」(業界関係者)のが現状だ。

 審決後に県議会で「県予算を岩手県外に流出させるのは許されない」といった発言が議員から出て、県が“民意”に後押しされた形で基準を見直し、「下請け容認」に踏み切るというシナリオもあり得る。

 仮にこのプランが実現しても、自主的な談合防止策や業者数の削減など、業界に厳しい注文がつくことは避けられない。

 また公取委が認定した談合に参加した業者がいわば“籠抜け”のようにペナルティーを受け、県の工事を受注し続けることに対する批判も強まるとみられる。

 公取委は今年に入っても鹿児島県の港湾工事をめぐり、地元業者と大手マリコンが談合を繰り返したとして、地元業者を独禁法違反(不当な取引制限)容疑で立ち入り検査した。公取委が今後も、地方の建設業者の談合に厳しい目を向けることは間違いなさそうだ。

 未曽有の不況から抜け出せない中、岩手県と同様に建設業者が事実関係を争ったり、ペナルティーを軽減するよう求める動きが全国に広がることも予想され、岩手県のケースがどういった結論となるかは、全国的な注目を集めそうだ。

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